蝋人形
ろうにんぎょう
初出:「新小説」1908(明治41)年5月号分量:約14分
書き出し:私は一人の蝋燭造《ろうそくつくり》を覚えている。その町は海に近い、北国《ほっこく》の寂しい町である。町は古い家ばかりで、いずれも押し潰されたように軒の低い出入の乱れた家数《やかず》の七八十戸もある灰色の町である。名を兵蔵といって脊の高い眉の濃い、いつも鬱《ふさ》いだ顔付《かおつき》をして物を言わぬ男である。彼の妻は小柄の、饒舌《しゃべ》る女で、眼尻が吊上っていた。子供に向ってもがみがみ叱る性質《た...