寂しき魚
さびしきうお
初出:「赤い鳥」1920(大正9)年12月1日分量:約13分
書き出し:それは古い沼で、川尻《かわじり》からつづいて蒼《あお》くどんよりとしていた上に、葦《あし》やよしがところどころに暗いまでに繁《しげ》っていました。沼の水はときどき静かな波を風のまにまに湛《たた》えるほかは、しんとして、きみのわるいほど静まりきっていました。ただ、おりおり、岸の葦のしげみに川蝦《かわえび》が、その長い髭《ひげ》を水の上まで出して跳《は》ねるばかりでした。その沼はいつごろからあったもの...