由布院行
ゆふいんこう
初出:「社会及国家」1926(大正15)年5月20日分量:約19分
書き出し:去年の夏のことである。漸《ようや》く学校は卒業したが、理研《りけん》の方の建物が出来上っていなかったので、暫《しばら》く物理教室の狭い実験室の一隅《いちぐう》を借りて、仕事を続けていた時のことである。Y君やM君と一緒に、一室で三組も実験をしていて、窮屈な思いをしていたところへ、夏が来た。夏休みで学生がいなくなると実験の方はだれて来る。誰か一番先に来た男が、紅茶をわかしてビーカーに入れて、手製の硝子...