南画を描く話
なんがをかくはなし
初出:「中央公論」1941(昭和16)年7月1日分量:約33分
書き出し:昨年の春から、自分では南画と称しているところの墨絵を描くことを始めた。南画を描くなどというと、段々年をとると、油絵よりも墨絵の方が良くなるそうだねなどと冷《ひや》かされることもある。しかし私の場合は、そういう趣味が枯れて来たなどという洒落《しゃ》れた話ではなく、もっと現実な理由があるのである。それはこの頃のように段々忙しくなって来ては、どうにも油絵など描いている閑《ひま》はなくなってしまったからで...