硝子を破る者
ガラスをやぶるもの
初出:「朝日評論」1946(昭和21)年8月1日分量:約18分
書き出し:汽車はあいかわらず満員である。吹雪で遅れ遅れするので、駅には前からの乗客が溜《たま》って益々混雑をひどくするらしい。やっと窓際の席がとれて、珍しいことと喜んだのも束《つか》の間《ま》、硝子が破れているので、雪を雑《まじ》えた零下十度の風が遠慮なく吹き込んで来る。とてもたまったものではない。前に坐《すわ》っている五十余りの闇《やみ》商人らしい男が、風呂敷《ふろしき》を窓にあてがっているが、どうも巧《...