銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
253 猫の首環
253 ねこのくびわ初出:「オール讀物」文藝春秋新社、1951(昭和26)年6月号分量:約37分
書き出し:一「人の心といふものは恐ろしいものですね、親分」八五郎が顎を撫で乍ら、いきなりそんな事を言ふのです。「あれ、大層物を考へるんだね。菓子屋の前を通ると、店先の大福餅をつかみ喰ひしたくなつたり、酒屋の前を通る度に、鼻をヒク/\させるのも、人間の心の恐ろしさだといふわけだらう」「止して下さいよ、親分、あつしのことぢやありませんよ」平次の鼻の先で、八五郎は無性《むしやう》にでつかい手を振りました。「さうだ...