銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
250 母娘巡礼
250 おやこじゅんれい初出:「オール讀物」文藝春秋新社、1951(昭和26)年3月号分量:約40分
書き出し:一「八、あれに氣が付いたか」兩國橋の夕景、東から渡りかけて平次はピタリと足を停《と》めました。陽が落ちると春の夕風が身に沁《し》みて、四方の景色も何んとなく寒々となりますが、橋の上の往來は次第に繁くなつて、平次と八五郎が、欄干に凭《もた》れて水肌を見入つてゐるのを、うさんな眼で見る人が多くなりました。「雪駄《せつた》直しでせう。先刻《さつき》から三足目の註文ですが、良い働きですね」「お前も一つやつ...