銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
264 八五郎の恋人
264 はちごろうのこいびと初出:「面白倶樂部」1951(昭和26)年夏季増刊分量:約37分
書き出し:一「親分、お早やう」飛込んで來たのは、お玉ヶ池の玉吉といふ中年者の下つ引でした。八五郎を少し老《ふ》けさせて、一とまはりボカしたやうな男、八五郎の長《な》んがい顏に比べると、半分位しか無い、まん圓な顏が特色的でした。「玉吉|兄哥《あにい》か、どうしたんだ、大層あわてゝ居るぢやないか」明神下の平次の家、障子の隙間からヌツと出したのは、その八五郎の長んがい顎《あご》だつたのです。「錢形の親分は?」お玉...