銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
259 軍学者の妾
259 ぐんがくしゃのめかけ初出:「オール讀物」文藝春秋新社、1951(昭和26)年11月号分量:約40分
書き出し:一「ところで親分はどう思ひます」「ところで——と來たね、一體何をどう思はせようてんだ。藪から棒に、そんな事を言つたつて、わかりやしないぢやないか」錢形平次と子分の八五郎は、秋日和の縁側に甲羅《かふら》を並べて、一|刻《とき》近くも無駄話を應酬《あうしう》して居たのです。「先刻《さつき》言つたぢやありませんか、子《し》曰《のたまは》くの先生のお妾——」「あ、お玉ヶ池の春名秋岳先生か、あれは儒者といふ...