銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
274 贋金
274 にせがね初出:「オール讀物」文藝春秋新社、1952(昭和27)年3月号分量:約36分
書き出し:一「親分、この頃妙なものが流行《はや》るさうですね」八五郎がそんな話を持込んで來たのは、三月半ばの、丁度花もおしまひになりかけた頃、浮かれ氣分の江戸の町人達も、どうやら落着きを取戻して、仕事と商賣に精を出さうと言つた、殊勝な心掛になりかけた時分でした。「流行物《はやりもの》と言へば、大道|博奕《ばくち》に舟比丘尼《ふなびくに》、お前の頭のやうに髷節《まげぶし》を無闇に右に曲げるのだつて流行物の一つ...