銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
298 匕首の行方
298 あいくちのゆくえ初出:「オール讀物」文藝春秋新社、1953(昭和28)年4月号分量:約39分
書き出し:一「八、居るかい」向う柳原、七|曲《まがり》の路地の奧、洗ひ張り、御仕立物と、紙に書いて張つた戸袋の下に立つて、平次は二階に聲を掛けました。よく晴れた早春のある朝、何處かで、寢|呆《ぼ》けた雄鷄《をんどり》が時をつくつて居ります。「誰だえ、人を呼捨てにしやがつて、戸袋の蔭から出て、ツラを見せろ」八五郎の長んがい顎《あご》が二階の窓へ出ると、滿面に朝陽を浴び乍ら、眩《まぶ》しさうに怒鳴《どな》るので...