銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
297 花見の留守
297 はなみのるす初出:「オール讀物」文藝春秋新社、1953(昭和28)年3月号分量:約37分
書き出し:一「親分、向島は見頃ださうですね」ガラツ八の八五郎は、縁側からニジり上がりました。庭一杯の春の陽ざし、平次の軒にもこの頃は鶯が來て鳴くのです。「さうだつてね、握り拳の花見なんかは腹を立てゝ歸るだけだから、お前に誘はれても附き合はねえつもりだが——」平次は相變らず世上《せじやう》の春を、貧乏臭《びんばふくさ》く眺めて居るのでせう。「へツ、不景氣ですね、錢形の親分ともあらうものが、——。駒形の佐渡屋が...