銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
042 庚申横町
042 こうしんよこちょう初出:「オール讀物」文藝春秋社、1935(昭和10)年7月号分量:約36分
書き出し:一「親分、向うの角を左へ曲りましたぜ」「よしツ、手前は此處で見張れ、俺は向うへ廻つて、逆に引返して來る」平次とガラツ八は、近頃江戸中を荒し廻る怪盜、——世間で『千里の虎《とら》』と言ふのを、小石川金杉水道町の路地に追ひ込んだのです。「合點だツ、親分、八五郎が關《せき》を据ゑりや、辨慶《べんけい》が夫婦連れで來ても通すこつちやねえ」ガラツ八の八五郎は、懷から手拭を出すと、キリキリと撚《より》を掛けて...