銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
045 御落胤殺し
045 ごらくいんごろし初出:「オール讀物」文藝春秋社、1935(昭和10)年11月号分量:約44分
書き出し:一「親分、——ちよいと、八五郎親分」ガラツ八は脊筋を擽《くす》ぐられるやうな心持で振り返りました。菊日和の狸穴《まみあな》から、榎坂《えのきざか》へ拔けようと言ふところを、後ろから斯う艶《なま》めかしく呼止められたのです。「何處だ」グルリと一と廻り、視線で描いた大きい弧がツイ鼻の先の花色|暖簾《のれん》の隙間を見落して居たのです。「此處よ、ちよいと、親分」「なんだ、——俺を鴨《かも》だと思つて居る...