銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
048 お藤は解く
048 おふじはとく初出:「オール讀物」文藝春秋社、1936(昭和11)年2月号分量:約37分
書き出し:一「平次、頼みがあるが、訊いてくれるか」南町奉行配下の吟味與力《ぎんみよりき》笹野新三郎は、自分の役宅に呼び付けた、錢形の平次に斯う言ふのでした。「へエ、——旦那の仰しやることなら、否《いや》を申す私では御座いませんが」平次は縁側に踞《うづく》まつたまゝ、岡つ引とも見えぬ、秀麗な顏を擧げました。笹野新三郎には、重々世話になつて居る平次、今更頼むも頼まれるも無い間柄だつたのです。「南の御奉行が、事を...