銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
063 花見の仇討
063 はなみのあだうち初出:「オール讀物」文藝春秋社、1937(昭和12)年5月号分量:約35分
書き出し:一「親分」ガラツ八の八五郎は息せき切つて居りました。續く——大變——といふ言葉も、容易には唇に上りません。「何だ、八」飛鳥《あすか》山の花見歸り、谷中へ拔けようとする道で、錢形平次は後から呼止められたのです。飛鳥山の花見の行樂に、埃と酒にすつかり醉つて、これから夕陽を浴びて家路を急がうといふ時、跡片付けで少し後れたガラツ八が、毛氈《まうせん》を肩に引つ擔いだまゝ、泳ぐやうに飛んで來たのでした。「親...