銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
080 捕物仁義
080 とりものじんぎ初出:「オール讀物」文藝春秋社、1938(昭和13)年9月号分量:約42分
書き出し:一江戸開府以來といはれた、捕物の名人錢形平次の手柄のうちには、こんな不思議な事件もあつたのです。——これは世に謂《い》ふ捕物ではないかも知れませんが、危險を孕《はら》むことに於ては、冷たい詭計《きけい》に終始した捕物などの比《ひ》ではないと言へるでせう。「親分ツ」飛込んで來たのは、ガラツ八の八五郎でした。「何といふあわてやうだ。犬を蹴飛ばして、ドブ板を跳ね返して、格子を外《はづ》して、——相變らず...