銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
310 闇に飛ぶ箭
310 やみにとぶや初出:「報知新聞」1953(昭和28)年7月分量:約136分
書き出し:凉み舟一「大層な人ですね、親分」兩國橋の上、ガラツ八の八五郎は、人波に押されながら、欄干《らんかん》で顎《あご》を撫でてをります。「まア、少し歩けよ。橋を越せば、一杯呑む寸法になつてゐるんだ」錢形平次は、泳ぐやうに近づいて、八五郎の袖を引きます。引つ切りなしに揚がる花火、五|彩《さい》の火花が水を染めて、『玉屋ア、鍵屋ア』といふお定まりの褒め言葉が、川|面《づら》を壓し、橋を搖るがして、何時果つべ...