銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
115 二階の娘
115 にかいのむすめ初出:「オール讀物」文藝春秋社、1940(昭和15)年11月号分量:約42分
書き出し:一「親分、變なことがあるんだが——」ガラツ八の八五郎が、少し鼻の穴を脹《ふく》らませて入つて來ました。「よくそんなに變なことに出《で》つ逢《くは》すんだね、俺なんか當り前のことで飽々《あき/\》してゐるよ。借りた金は返さなきやならないし、時分どきになれば腹は減るし、遊んでばかりゐると、女房は良い顏をしないし」錢形の平次はさう言ひ乍ら、せつせと冬仕度の繕《つくろ》ひ物をしてゐる戀女房のお靜の方をチラ...