銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
183 盗まれた十手
183 ぬすまれたじって初出：「オール讀物」文藝春秋新社、1948（昭和23）年6月号分量：約30分
書き出し:一兩國の川開きが濟んで間もなく、それは脂汗《あぶらあせ》のにじむやうな、いやに、蒸し暑い晩でした。その頃上方から江戸に入つて來て、八百八町の恐怖になつた、巾着切と騙《かた》りの仲間——天滿七之助の身内十何人を珠數《じゆず》つなぎにして、江戸つ子達にやんやと喝采を送られた錢形平次と八五郎は、町奉行村越｜長門守《ながとのかみ》樣小梅の寮に招かれ、丁寧なねぎらひの言葉があつた上、別室で酒肴を頂いて、寮を...
