涙香に還れ
るいこうにかえれ
初出:「巌窟王 上巻」愛翠書房、1948(昭和23)年11月分量:約5分
書き出し:江戸川乱歩氏が盛んに売り出そうとしている頃、それは確か関東大震災の翌年あたりであったと思う。報知新聞の応接間で初めて逢って、私は「面白い探偵小説を書こうとするなら黒岩|涙香《るいこう》を研究すべきではあるまいか、今の人は涙香を忘れかけて居るが、この人の話術は古今独歩で、筋を面白く運ぶこと、人物を浮出させること、複雑な事件を書きこなして行く技倆に至っては、全く比類もないものである」と話したことがあっ...