花の咲く前
はなのさくまえ
初出:「お話の木」1937(昭和12)年5月分量:約26分
書き出し:一赤《あか》い牛乳屋《ぎゅうにゅうや》の車《くるま》が、ガラ、ガラと家《いえ》の前《まえ》を走《はし》っていきました。幸吉《こうきち》は、春《はる》の日《ひ》の光《ひかり》を浴《あ》びた、その鮮《あざ》やかな赤《あか》い色《いろ》が、いま塗《ぬ》りたてたばかりのような気《き》がしました。それから、もう一つ気《き》のついたことは、この車《くるま》がいってしまってからまもなく、カチ、カチという拍子木《...