春泥
しゅんでい
初出:「大阪朝日新聞」1928(昭和3)年1月5日~4月4日分量:約198分
書き出し:向島一……渡しをあがったところで田代は二人づれの若い女に呼びとめられた。——小倉と三浦とはかまわずさきへ言問《こととい》のほうへあるいた。「何だ、あれ?」すぐにあとから追ッついた田代に小倉はいった。「あれは、君……」いいかけて田代は「慶ちゃん、君は知ってるだろう?」それがくせの頤《あご》をなでながらあるいている三浦のほうへ眼を向けた。「チビ三郎の内儀《かみ》さんじゃァねえか。」ずけりと膠《にべ》も...