ダルマ船日記
ダルマせんにっき
初出:「中央公論」中央公論社、1937(昭和12)年12月号分量:約20分
書き出し:×月×日金眼を覚ましてみると、側に寝ていた筈の六さんの姿は見えなかった。居候のくせに、なぜこうも寝坊するのであろうか。桝のような船室から首を出して、甲板を見廻わすと、既に、七輪の薬罐が湯気を吹きあげていた。この船の名は、水神丸。積載量百トン。型は、通称ダルマと言っている。年齢は、三十五歳。生れは深川。まるで、老人みたいな風貌だ。無数の皺の合間合間には、鉄錆びが汚みついている。艫には船室があって、三...