思ひ出す牧野信一
おもいだすまきのしんいち
初出:「文学界」1936(昭和11)年5月号分量:約7分
書き出し:牧野信一が縊死した。原因が何であるか、私は知らない。新聞に拠れば、神経衰弱が原因だし、宇野女史との恋愛なぞといふことも一寸載つてゐたが、どれも直ちに信じる気にはなれない。仮りに正しく神経衰弱が原因だつたとしても、単純な受験生のそれではあるまいし、その神経衰弱の因つて来た所を考へてみたくなる。恋愛の方はといへば、てんで問題にしたくはない。牧野さんといふ人は、恋愛に殉じる態の純情家といふものとは遙かに...