芝、麻布
しば、あざぶ
初出:「東京日日新聞」1927(昭和2)年10月25日~30日分量:約19分
書き出し:『あばよ、芝よ、金杉よ。』子供の頃、一緒に遊んでいた町の子達と別れる時、よく私達は歌のように節をつけて、こういった。私は麹町の富士見町で育った。芝といえば——金杉といえば——大変遠いところのような気がした。『あばよ、芝よ、金杉よ。』今でも、この一句を口ずさむと、まだ電灯のなかった、薄暗い、寂しい、人通りの少ない、山の手の昔の夕暮が思い出される。その芝というところと私が関係を持つようになったのは、三...