銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
002 振袖源太
002 ふりそでげんた初出:「オール讀物」文藝春秋社、1931(昭和6)年5月号分量:約35分
書き出し:一兩國に小屋を掛けて、江戸開府以來最初の輕業《かるわざ》といふものを見せた振袖源太。前髮立の素晴らしい美貌《びばう》と、水際立つた鮮《あざ》やかな藝當に、すつかり江戸ツ子の人氣を掴んでしまひました。あまりの評判に釣られるともなく、半日の春を小屋の中の空氣に浸《ひた》つた、捕物の名人で『錢形』と異名を取つた御用聞きの平次。夕景から界隈の小料理屋で一杯引つかけて、兩國橋の上にかゝつたのはもう宵の口。小...