銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
307 掏られた遺書
307 すられたいしょ初出:「オール讀物」文藝春秋新社、1953(昭和28)年12月号分量:約37分
書き出し:一八五郎の取柄は、誰とでも、すぐ友達になれることでした。長んがい顎《あご》と、とぼけた話し振りと、そして桁《けた》の外《はづ》れた己惚《うぬぼ》れが、どんな相手にも、警戒させずに近づけるのです。その代り、時には飛んでもない者と、すつかり眤懇《ぢつこん》になつてゐることがあります。巾着切|辰《たつ》三などもその一人で、相手は御法の網の目をくゞる、雜魚《ざこ》のやうな男。人の懷ろを狙ふのが渡世と言つて...