討たせてやらぬ敵討
うたせてやらぬかたきうち
初出:「歌舞伎 秋季臨時増刊」歌舞伎出版部、1925(大正14)年9月分量:約31分
書き出し:◇寛永《かんえい》十六年四月十六日の早朝。陸奥国《むつのくに》会津《あいづ》四十万石|加藤式部少輔明成《かとうしきぶのしょうゆうあきなり》の家士、弓削田宮内《ゆげだくない》は若松城の南の方で、突然起った轟音《ごうおん》にすわと、押っ取り刀で小屋の外へ飛び出した。この日宮内は頭痛がひどいので、小屋に引き籠《こも》って養生していたのである。宮内は骨細い生れつきで、襟首《えりくび》のあたりは女かと思うば...