ある温泉の由来
あるおんせんのゆらい
初出:「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1936(昭和11)年12月分量:約39分
書き出し:長い伝統東引佐村《ひがしいなさむら》と西引佐村は引佐川《いなさがわ》を境《さかい》にして、東と西から相寄り添っている。名前から言っても、地勢から見ても、兄弟村だけれど、仲の悪いこと天下無類だ。何の因果か、喧嘩ばかりしている。両村の経緯《いきさつ》は生きている人間の記憶以前に遡《さかのぼ》るものらしい。僕がまだ小学校に入らない頃、近所に百を越した老人があった。もう悉皆《すっかり》耄碌《もうろく》して...