銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
290 影法師
290 かげぼうし初出:「キング」1952(昭和27)年分量:約63分
書き出し:發端篇一「親分、變なことを聽きましたがね」ガラツ八の八五郎は、薫風《くんぷう》に鼻をふくらませて、明神下の平次の家の、庭先から顎を出しました。いとも長閑《のどか》な晝下りの一齣《ひとこま》。「お前の耳は不思議な耳だよ、よくさう變つたことを聽き出せるものだ。俺の方は尋常なことばかりさ、蒔《ま》いた種は生えるし、借りた金は返さなきやならねえし」平次は氣のない返事をしながら、泥鉢《どろばち》に出揃つた、...