小津安二郎が、丸の内界隈の情景を描写している。 あれは、空ショットとかいっただろうか、まるで小津映画の一場面を見ているようだ。 目に映る何気ないこうした風景をスケッチして、撮影のイメージを溜め込んでいたのだろうか。 早朝に神田辺りから野球のユニフォーム姿の若者の一群が、自転車に乗って日比谷方面に向かって颯爽と走りすぎていった。 さて、昭和8年というと、どんな映画がいいだろう。 「東京の女」、それとも名作「出来ごころ」か、いやいや、丸の内が似合う作品といえば、やはりここは田中絹代が主演した「非常線の女」しかないだろう。 まるでハリウッド映画のような小粋なギャング映画だ、 後にも先にも小津安二郎のギャング映画なんて、ちょっと見られないぞ。 この作品で悩めるやくざを繊細に演じたスマートな岡譲二も楽しめる。
「丸ビルはとても大きい愚鈍な顔している」 小津の文を読むのは初めてで新鮮だった (17)
最近、小津安二郎の映画を数本観た。丸ビルやスクリーン全面に碁盤のように配置されたビルの窓。忙しそうに動いている人々等不思議な位小津映画の情景と重なった。