『奇談』と言えば、奇談である。しかし、心温まる結末は、この作品を読み進めていく内に、ある程度想定できる結末であった。であるから、奇談とは断じきれないようにも感じられる。 現代のように、メール、SNS等の通信媒体が活況な世界では、『恋文』を認めて送るなどは“化石”も同然の慣習かもしれない。と、するならば、恋文ーーラブレターーーの『代作』ーー代筆ーーなど、古の行為と言えよう。しかしながら、出来うる限り後世まで残っていてほしい慣習、行為である。
とても良い。
病室で自分の情欲に迷って幽里子への殺意が芽生えたという、主人公の心の動きが描かれていることで、物語が締まっている。幽里子の手紙の宛先、思慕の対象が主人公であるというのは、予想出来るものであり、後の多くはこのヒロインの美しくさ、心の清らかさ、それにのめり込んでいく、主人公の心情を書き連ねているだけなので、甘いミルキーのような文章だから 一瞬の殺意が物語を引き締める必要があったのかと思う。