無情な今年の二月
むじょうなことしのにがつ
村松梢風氏と下中弥三郎氏をいたむ
むらまつしょうふうしとしもなかやさぶろうしをいたむ分量:約8分
書き出し:二月という月は、私にとって生れ月で、元来ならばまず目出たい月というのだが、今年の二月は相次いで、私の最も親しい人々が数人もあの世へ行ったので、厄月になってしまった。そのうちでも、村松梢風氏と下中弥三郎翁の死は、わけても傷心なことであった。梢風さんとは四十年近い交遊であった。知り合ったのは、私がまだ東京に遊学していた大正初年のころで、故馬場孤蝶先生の市ヶ谷田町の書斎であった。馬場先生は当時文壇随一の...