小夜の中山夜啼石
さよのなかやまよなきいし
初出:「婦人倶楽部」1923(大正12)年7月号分量:約18分
書き出し:秋の末である。遠江国《とおとうみのくに》日坂《にっさか》の宿《しゅく》に近い小夜《さよ》の中山街道《なかやまかいどう》の茶店《ちゃみせ》へ、ひとりの女が飴《あめ》を買ひに来た。茶店といつても型《かた》ばかりのもので、大きい榎《えのき》の下《した》で差掛《さしか》け同様の店をこしらへて、往来《ゆきき》の旅人を休ませてゐた。店には秋らしい柿や栗がならべてあつた。そのほかにはこの土地の名物といふ飴を売つ...