銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
023 血潮と糠
023 ちしおとぬか初出:「オール讀物」文藝春秋社、1933(昭和8)年11月号分量:約42分
書き出し:一「親分、面白い話がありますぜ」ガラッ八の八五郎、銭形平次親分の家へ呶鳴《どな》り込みました。「相変らず騒々しいな、横町の万年娘が、駆落したって話なら知っているよ」銭形の平次は、恋女房のお静に顔を当らせながら、満身に秋の陽を浴びて、うつらうつらとやっているところだったのです。「ヘッ、そんなつまらない話じゃねえ。——ところでお静さん、——いや姐御《あねご》って言うんだっけ——、親分の顔を当るのはよい...