銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
021 雪の精
021 ゆきのせい初出:「オール讀物」文藝春秋社、1932(昭和7)年12月号分量:約39分
書き出し:一昼頃から降り続いた雪が、宵には小やみになりましたが、それでも三寸あまり積って、今戸《いまど》の往来もハタと絶えてしまいました。越後屋佐吉《えちごやさきち》は、女房のお市《いち》と差し向いで、長火鉢《ながひばち》に顔をほてらせながら、二三本あけましたが、寒さのせいか一向発しません。「銭湯へ行くのはおっくうだし、按摩《あんま》を取らせたいにも、こんな時は意地が悪く笛も聞えないね」「お前さん、そんな事...