銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
138 第廿七吉
138 だいにじゅうしちきち初出:「オール讀物」文藝春秋社、1942(昭和17)年11月号分量:約30分
書き出し:一「親分、変なことがありますよ」八五郎のガラッ八が、長《なんが》い顔を糸瓜棚《へちまだな》の下から覗かせたとき、銭形の平次は縁側の柱にもたれて、粉煙草をせせりながら、赤蜻蛉《あかとんぼ》の行方《ゆくえ》を眺めておりました。この上もなくのんびりした秋のある日の夕刻です。「びっくりさせるじゃないか、俺は糸瓜が物を言ったのかと思ったよ」「冗談でしょう。糸瓜が髷《まげ》を結って、意気な袷《あわせ》を着るも...