日本名婦伝
にほんめいふでん
静御前
しずかごぜん初出:「主婦之友」昭和15年5月号分量:約34分
書き出し:一義経《よしつね》はもろ肌を脱いで、小冠者《こかんじゃ》に、背なかの灸《きゅう》をすえさせていた。やや離れて、広縁をうしろにし、じっと、先刻《さっき》から手をつかえているのは、夫人《おくがた》の静《しずか》の前《まえ》であった。八月の真昼である。六条|室町《むろまち》の町中とは思えぬほど、館《やかた》は木々に囲まれている。照り映える青葉の色と匂いに室内も染りそうだった。——が、静《しずか》にとって...