田崎草雲とその子
たざきそううんとそのこ
初出:「文藝春秋 夏期増刊号」1932(昭和7)年分量:約54分
書き出し:梅渓《ばいけい》餓鬼草紙《がきぞうし》の中に住む一九《いっく》先生に会うの機縁山谷堀の船宿、角中《かくちゅう》の亭主は、狂歌や戯作《げさく》などやって、ちっとばかり筆が立つ。号を十|字舎《じしゃ》三九といっていたが、後に、十|返舎《ぺんしゃ》一九《いっく》と改めて、例の膝栗毛《ひざくりげ》を世間に出した。それが馬鹿な売れ行きをみせて、馬琴物も種彦物も影をひそめてしまったので、一九は、すっかりいい気...