老獣医
ろうじゅうい
初出:「中央公論」反省社、1909(明治42)年3月1日分量:約44分
書き出し:一糟谷獣医《かすやじゅうい》は、去年の暮《く》れ押《お》しつまってから、この外手町《そとでまち》へ越《こ》してきた。入り口は黒板《くろいた》べいの一部を切《き》りあけ、形《かたち》ばかりという門がまえだ。引きちがいに立てた格子戸《こうしど》二|枚《まい》は、新しいけれど、いかにも、できの安物《やすもの》らしく立てつけがはなはだ悪《わる》い。むかって右手《みぎて》の門柱《もんちゅう》に看板《かんばん...