二銭銅貨
にせんどうか
初出:「新青年」博文館、1923(大正12)年4月分量:約46分
書き出し:上「あの泥坊が羨《うらやま》しい」二人の間にこんな言葉が交《かわ》される程、其頃《そのころ》は窮迫《きゅうはく》していた。場末《ばすえ》の貧弱な下駄屋の二階の、ただ一間しかない六畳に、一閑張りの破れ机を二つ並べて、松村武とこの私とが、変な空想ばかり逞《たくま》しゅうして、ゴロゴロしていた頃のお話である。もう何もかも行詰って了《しま》って、動きの取れなかった二人は、丁度その頃世間を騒がせた大泥坊の、...