新書太閤記
しんしょたいこうき
03 第三分冊
03 だいさんぶんさつ初出:太閤記「読売新聞」1939(昭和14)年1月1日~1945(昭和20)年8月23日分量:約522分
書き出し:春《はる》の客《きゃく》永禄《えいろく》五年の正月、信長は二十九歳の元旦を迎えた。まだほの暗いうちに、彼は起って浴室にはいると、水浴《みずあ》みして身を浄《きよ》めていた。井水《せいすい》はかえって暖かく、白いものが立ち昇っているが、それを汲み上げる間に、水桶の底は凍りついてしまう。「おお、寒!」井戸のまわりで、小姓たちが思わず白い息と一緒につぶやくと、「しッ」と、近習《きんじゅ》の侍が叱った。信...