新書太閤記
しんしょたいこうき
09 第九分冊
09 だいくぶんさつ初出:太閤記「読売新聞」1939(昭和14)年1月1日~1945(昭和20)年8月23日分量:約524分
書き出し:偽和《ぎわ》越前はもう積雪の国だった。雪となり出すと、明けても雪|霏々《ひひ》、暮れても雪霏々、心を放つ窓もない。が、北《きた》ノ庄《しょう》の城廓は、この冬、いつもの年よりは、何か、あたたかいものがあった。お市《いち》の方《かた》と、連れ子の三人の姫たちが、本丸に近い一廓に住みはじめていたせいであろう。めったに、お市の方のすがたは見るを得ないが、三人の姫たちは、限られている局《つぼね》の中だけに...