紀伊国狐憑漆掻語
きいのくにのきつねうるしかきにつくはなし
初出:「改造」1931(昭和6)年9月号分量:約24分
書き出し:漆掻きと云ったって都会の人は御存知ないかも知れませんが、山の中へ這入って行って漆の樹からうるしの汁をしぼるんです。いいえ、なかなか、百姓の片手間ではありません。ちゃんとそれを専門にする者があったんで、近頃はめったに見かけませんけれども、外国の安い漆が輸入されるようになったそうですから、いまどきあんなことをしても手間ばかりかかって引き合わないんでしょうな。兎に角以前には私《わたし》の村なんかへもよく...