一夕話
いっせきわ
初出:「サンデー毎日」1922(大正11)年7月分量:約18分
書き出し:「何しろこの頃《ごろ》は油断がならない。和田《わだ》さえ芸者を知っているんだから。」藤井《ふじい》と云う弁護士は、老酒《ラオチュ》の盃《さかずき》を干《ほ》してから、大仰《おおぎょう》に一同の顔を見まわした。円卓《テエブル》のまわりを囲んでいるのは同じ学校の寄宿舎にいた、我々六人の中年者《ちゅうねんもの》である。場所は日比谷《ひびや》の陶陶亭《とうとうてい》の二階、時は六月のある雨の夜、——勿論《...