南方郵信
なんぽうゆうしん
初出:「文學界 第五巻第四号」文藝春秋社、1938(昭和13)年4月1日分量:約55分
書き出し:一九州山脈に源を発したO川は、黄濁した体《てい》で日向《ひゅうが》の国の平原をうねり、くねり、末は太平洋に注いでいる。三十六里もある長い川であるが、最後に黒潮と激突しようとする一線には、海岸線に沿った砂浜が、両方から腕のように延びてきて、中に深淵の入江を抱いている。港というには面積がせまく、ハマオモトが固く根をはって点在している砂丘の垣ひとえ外には、小さな汽船ぐらいは忽《たちま》ちひと呑《の》みに...