二癈人
にはいじん
初出:「新青年」博文館、1924(大正13)年6月分量:約30分
書き出し:二人は湯から上って、一局囲んだ後を煙草《たばこ》にして、渋い煎茶《せんちゃ》を啜《すす》りながら、何時《いつも》の様にボツリボツリと世間話を取交していた。穏かな冬の日光が障子《しょうじ》一杯に拡《ひろが》って、八畳の座敷をほかほかと暖めていた。大きな桐の火鉢《ひばち》には銀瓶《ぎんびん》が眠気を誘う様な音を立てて沸《たぎ》っていた。夢の様にのどかな冬の温泉場の午後であった。無意味な世間話が何時《い...