随筆銭形平次
ずいひつぜにがたへいじ
17 捕物小説というもの
17 とりものしょうせつというもの分量:約7分
書き出し:一「捕物小説」というものは、好むと好まざるとに関せず、近頃読書界の一つの流行で、大衆雑誌の編輯者《へんしゅうしゃ》が「捕物小説を一つ入れなければ、売る自信が持てない」というのも、決して誇張やお世辞ではないようである。十年二十年ほど前には、やくざ小説がはやり、明治の初年には、義賊小説や泥棒芝居が恐ろしい勢いで、創作演劇の世界を風靡《ふうび》した。そのいずれにも共通な性格は、英雄的で、多分に反社会的な...