壁画摸写
へきがもしゃ
初出:「文藝春秋 第十九巻第一号」文藝春秋社、1941(昭和16)年1月1日分量:約20分
書き出し:二千六百年の記念事業の中で、百年後の日本人に最も感謝されるものは、今度の法隆寺の壁画の摸写ではあるまいかと、友人の一人が私に語ってくれたことがある。そう聞いて見れば、なる程その通りかもしれないという気がする。法隆寺の壁画のことは、色々と美しい感嘆の言葉は聞いているが、まだ見たことはなかった。もっとも機会を作れば、春秋の拝観期に大和を訪れることも出来なくもなかったが、懐中電灯の光でぬすみ見る程度では...